2020/08/28 Science
2020/08/28 Scienceに載った面白そうな論文たち
探索と活用のジレンマを解く脳内メカニズム
新しい選択肢を探索するか、今実行中の戦略を続けるかという問題は「探索と活用ジレンマ」と呼ばれ、私達は日々直面している。ヒトの前頭前野 (mPFC) の神経活動を解析したところ、腹側mPFCで実行中の戦略の信頼性を予測し、背側mPFCで実際の結果を評価していた。
- ヒトの前頭葉はヒトがヒトたる所以です
人工的に神経シナプスを作成する
神経細胞同士をつなぐシナプス構造を人工的に形成する方法を設計した。また小脳失調、アルツハイマー病、脊髄損傷などの疾患マウスにこの手法を用いることで、症状の改善が見られた。
細胞が長距離移動するメカニズム
発生過程やがん転移などの際に、細胞が長距離を移動するメカニズムについての論文。転移性がん細胞などの細胞が複雑な迷路を解くことができることを示し、そのメカニズムも明らかにした。
- 細胞が迷路を解いている図がインパクト大。細胞移動を抑制することでがんの転移を抑えられたら良いですね
ウイルスから身を守るために原核生物が持つ酵素の同定
細菌には、外から侵入したウイルスを防御するためのシステムが多く備わっていると考えられる。この防御システムに関係する新しい遺伝子群をバイオインフォマティクスにより同定した。
- CRISPR/Casなどで有名なFeng Zhang研究室より、少し新しい方向性の論文
量子コンピュータを用いた化学シミュレーション
12量子ビットを用い、水素結合の結合エネルギーなど、量子化学のシミュレーションを行った。
地球の水の源についての候補の発見
エンスタタイト・コンドライト隕石という隕石がその候補として見つかった。
- 地球の水の起源など考えたことがなかったですね
ジカウイルスの感染により将来の重症デング熱病のリスクが上がる
デングウイルスとジカウイルスは似たタンパク質を持っている。ジカウイルスとデングウイルスが両方流行したニカラグアのデータの解析により、ジカウイルスの感染が特定のデングウイルスの重症化リスクを上げることが判明した。
2020/08/27 Nature
2020/08/27 Natureに載った面白そうな論文たち
電気で制御できる超小型アクチュエーター
微細加工技術により、電気的に制御できるμmオーダーのアクチュエーターを新作。実際に数百μm以下のサイズの歩行ロボットを作成。大量生産も可能とのこと。
- 薬を狙った細胞に届けるなど、医学・生物学への応用に期待できそう
南極氷棚の雪解け水に対する脆弱性
現在の地球温暖化により、南極の雪が解けている。南極の氷棚の中で、雪解け水によって壊されやすい箇所をディープラーニングや理論計算により推定。
- こんなところでもディープラーニングが用いられているのですね
ニューギニアの植生マップを作成
ニューギニア島にて植物の専門家が徹底的に調査した結果をカタログ化した。13,634種、1,742属、264科の植物が確認され、最も植生が多様な島であると言える。
- 超大規模な調査のまとめ。Natureには珍しいタイプの論文?Fig. 2の植物の写真がきれいで楽しい
イナゴが群れを作る際のフェロモンとして、4-ビニルアニソールを同定
イナゴの群れは農業・環境的に問題だが、イナゴが単独型から群衆型に移行する際のシグナル(「集群フェロモン」)の実態は不明であった。今回4-ビニルアニソールが集群フェロモンであることを同定した。
- とてもきれいな構成の論文。農業などへの応用も期待できそう
線虫の神経細胞の種類はホメオボックス遺伝子の発現パターンで区別できる
- 1種類の転写因子familyの発現パターンで全神経細胞の多様性を記述できるのは面白いです
長時間作用型HIV治療薬に関する第1相臨床試験
X線構造解析の情報を用い、HIVウイルスのカプシドタンパク質の機能を抑制する低分子薬GS-6207を設計。細胞実験と第1相臨床試験により、HIVウイルスに対する効果を確認。1回の皮下投与で約6ヶ月効果が持続する結果も得られた。薬の服用をあまり守らないHIV患者に対しても治療できる可能性がある。
FLT3遺伝子の変異は自己免疫性甲状腺疾患のリスク要因である
アイスランドとイギリスにおけるゲノムワイド関連研究により、FLT3遺伝子の特定の変異があることで自己免疫性甲状腺疾患のリスクが1.46倍上昇することが判明した。
- 典型的なゲノムワイド関連研究の論文。数10万人のゲノムデータという規模感がすごい
Hello world
# このブログについて
生物系の大学院生が、海外の科学ニュースや最新論文を日本語で伝えます。特にNatureやScienceなどのジャーナルの最新号から面白そうな論文をピックアップして要約します。間違いを発見された方はぜひご指摘をお願いします。
# 私について
某大学院の博士課程に在学中。専門は神経科学。論文の査読を待っている間が一番苦痛